裁量権の逸脱・濫用とは?違い・判断基準・判例をわかりやすく解説【行政法】

行政書士試験・法律解説

はじめに

「裁量権の逸脱・濫用って何?」

「逸脱と濫用の違いがわからない…」

「どういう場合に違法になるの?」

行政法を学び始めると必ず出てくる重要テーマですが、言葉が難しく、つまずきやすいポイントでもあります。

しかし、この論点は「型」で理解すれば一気に整理できます。

「裁量権の逸脱・濫用禁止の原則」は、行政の一般原則のうちの一つです。

行政の一般原則についてはこちらの記事で詳しく解説しています。                            →行政法の一般原則とは?判例紹介でわかりやすく解説【行政書士試験対策】

この記事では、

  • 裁量権の基本
  • 逸脱と濫用の違い
  • 判断基準と具体例
  • 重要判例

を、初学者でも一発で理解できるように解説します。

結論(全体像)

裁量権の逸脱・濫用とは、行政が本来認められている判断の範囲を超えたり、不合理な形でその権限を使ってしまうことをいいます。

つまり、
「行政にはある程度の自由があるが、何でもしていいわけではない」
というルールです。

この原則によって、行政の恣意的(しいてき)な判断から国民を守っています。

※恣意的(しいてき):論理的根拠なく、勝手に気ままにという意味。

行政書士試験受験生が、裁量権の逸脱と濫用について考えている

裁量権とは?

裁量権とは、行政が一定の範囲内で自由に判断できる権限のことです。

行政活動は多岐にわたるため、法律ですべてを規定することは難しく、一定の範囲で行政に裁量権を与えることでさまざまなケースに対応することができます。

例えば、

  • 営業許可を出すかどうか
  • 公務員の懲戒処分の重さ

などは、法律で細かく決まっているわけではなく、行政の判断に委ねられています。

ただし、この「自由」には限界があり、行政が何でも勝手に決められるというわけではありません。

裁量権は要件裁量と効果裁量の2段階で判断されます。

要件裁量

要件裁量とは、法律が定める条文に要件が当てはまるかを判断することです。

極端な例:

  • 架空の法律「全国民は清潔でなくてはならない」が制定
  • 条文で「行政庁は、『著しく不潔な身なり』で街を歩く者に対し、強制シャワー処分を命じることができる。」と書かれる

この『著しく不潔な身なり』を判断するのが要件裁量になります。

効果裁量

効果裁量とは、要件裁量を満たしたときに、「実際に処分するのか?」、「どのように処分をするのか?」を判断することです

極端な例:

上記の架空の法律に当てはめると、

  • 明らかに、清潔ではない人に該当する人を、現場の公務員が発見
  • 男に話を聞くと、「3日間風呂に入っていない」と言う

条文では、「『著しく不潔な身なり』で街を歩く者に対し、強制シャワー処分を命じることができる。」あるので、行政庁は処分を判断します。

  • 強制シャワーにするか
  • 口頭注意にするか

この判断のことを効果裁量といいます。

逸脱と濫用の違い

「逸脱」と「濫用」は似ていますが、意味が異なります。

逸脱:
→ そもそも判断の枠から外れている状態
(例:考慮してはいけない事情を考慮している)

濫用:
→ 枠内ではあるが、使い方が不合理な状態
(例:処分が重すぎる・不公平)

簡単なイメージ:

  • 逸脱=ルールの外に出ている
  • 濫用=ルール内だがやりすぎ

この違いを押さえることが重要です。

裁量権の逸脱と濫用の違いを図解で解説

判断基準

裁量権の逸脱・濫用にあたるかどうかは、主に次のような観点で判断されます。

上記の極端な例に当てはめてみます。

極端な例:

  • 架空の法律「全国民は清潔でなくてはならない」が制定
  • 条文で「行政庁は、『著しく不潔な身なり』で街を歩く者に対し、強制シャワー処分を命じることができる。」と書かれる

上記の極端な例に当てはめてみます。

  • 事実誤認がある                                                  →実は、「わざと汚れた加工をした100万円の高級ヴィンテージ服」を着ていただけだった。
  • 考慮すべき事情を無視している                                       →急に雨が降りだし、傘が無く濡れただけだった。
  • 考慮すべきでない事情を重視している                                          →公務員がその男性を個人的に嫌いだったので、「ちょっと服がシワになっているだけ」なのに「著しく不潔だ!」と強引に決めつけた。
  • 処分が社会通念上著しく不合理(比例原則違反)                                    →「服に少し泥が跳ねているだけ」の人に対し、いきなり「高圧洗浄機で3時間の強制洗浄処分」を下した。
  • 不平等な扱いをしている(平等原則違反)                                   →同じくらい泥だらけの人が二人いたのに、「自分の好みのタイプの人」だけ見逃し、もう一人には「強制シャワー」を命じた。

これらに当てはまる場合、違法と判断される可能性があります。

理解しやすい具体例

わかりやすいように、学校の校則を具体例にします。

法律(校則):
「勉強に不要な物を持ってきてはいけない。違反者は没収できる。」

①要件裁量:

先生が生徒のカバンから「推しのトレーディングカード」を見つけました。

  • 先生の判断: 「これは勉強に関係ないから、『勉強に不要な物』にあたる!」

②効果裁量:

「不要な物だ」と決まった後、先生はどうするか選びます。    

  • 先生の判断: 「今回は初めてだから注意だけにしよう」 or 「ルール通り没収だ!」

③逸脱・濫用の境界線

  • 逸脱(ルールの外側):

「不要な物を持ってきたから、停学にする!」(校則には『没収』としか書いていないのに、勝手に重い罰を与えた)

  • 濫用(ルール内だが不当):

「お前の顔が気に入らないから、カードをシュレッダーにかける!」(没収する権利はあるが、目的が私怨だし、やり方がひどすぎる)

裁量権の逸脱・濫用を理解するには、

  • 要件裁量
  • 効果裁量
  • 逸脱・濫用の境界線

を理解することが重要です。

判例

裁量権の逸脱・濫用は、多くの判例でも問題となっています。

判例では、
「社会通念に照らして著しく妥当性を欠く場合」
には違法とされるとされています。

マクリーン事件【最判昭和53年10月4日】                                       →マクリーン事件とは?わかりやすく解説|裁量権の逸脱・濫用との関係【最判昭和53年10月4日】

個室付浴場事件【最判昭和53年5月26日】                          →余目町個室付浴場事件とは?わかりやすく解説|裁量権の濫用・他事考慮の典型判例【最判昭和53年5月26日】                                       事案:個室付浴場の開業を阻止するためにした、知事の児童遊園設置認可処分が、行政権の著しい濫用ではないかが争われた裁判。

判決:形式的に合法でも目的が不当なら違法

行政書士試験でのポイント

裁量権の逸脱・濫用禁止の原則の理解は行政書士試験でも重要になります。

行政書士試験でのポイントは、

  • 「逸脱」と「濫用」の区別
  • 裁量権の合理性
  • 判例知識

行政書士試験では上記のポイントが重要になります。

他の行政法の一般原則

行政法の一般原則には他にも、

  • 信義則
  • 比例原則
  • 平等原則

 などがあります。

これらの一般原則についてはこちらの記事で解説しています。

信義則とは?信義誠実の原則をわかりやすく解説【行政法の一般原則・判例付き】

比例原則とは?行政法の一般原則をわかりやすく解説【行政書士試験対策】 

平等原則とは?行政法の一般原則をわかりやすく解説|憲法14条との関係【行政書士試験】                           

まとめ

裁量権の逸脱・濫用禁止の原則のポイントは以下のとおりです。

  • 行政には一定の自由(裁量権)がある
  • しかし無制限ではない
  • 不合理・不公平な判断は違法になる

「裁量=自由ではない」という理解が重要です。

この原則を押さえることで、行政法の理解が一気に深まります。

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