はじめに
「条例って処分になるの?」
「ルールを決めただけなのに、なぜ裁判で争えるの?」
行政法を学習していると、「条例」と「処分性」の関係で混乱することがあります。
結論からいうと、
条例は原則として処分性は認められません。
しかし、この「保育所廃止条例事件」では、例外的に処分性が認められました。
この記事では、
- 事案の概要
- 争点
- 判旨
- なぜ処分性が認められたのか
を、初学者でも理解できるようにやさしく解説します。
この記事を読めば、「条例でも処分性が認められる場合」が理解できます。
▶先に処分性の基本を確認したい方はこちら
→ 処分性とは?わかりやすく解説
▶処分性のまとめはこちら
→処分性の全体像まとめ|判断基準と重要判例を一気に整理
保育所廃止条例の処分性とは?(結論)
結論:保育所廃止条例には処分性が認められる
つまり、「取消訴訟の対象になる」ということです。
本来、条例は不特定多数に向けられるものなので、処分性の要件の、「特定の者」に当たらず処分性が認められません。
しかし本件では、条例が特定の保育所の利用関係に直接影響を及ぼすため、実質的に個別具体的な処分と同じと評価され、例外的に処分性が認められました。
図解:結論

ポイントは、形式ではなく実質で判断することです。
▶処分性の判断方法についてはこちら
→処分性の判断方法とは?3ステップでわかりやすく解説
▶抗告訴訟についてはこちら
→抗告訴訟とは?種類・流れをわかりやすく解説
▶取消訴訟についてはこちら
→取消訴訟とは?要件・出訴期間・原告適格をわかりやすく解説
事案の概要
ある自治体が、保育所を廃止する条例を制定しました。
この条例により、
- 特定の保育所が廃止される
- 利用していた住民がサービスを受けられなくなる
という影響が生じました。
これに対して住民が、 条例の取消しを求めて訴訟を提起しました。
- 横浜市が公立保育所の運営を効率化するために、4つの市立保育所を廃止し、民営に移管する計画をする
- 保育所に通う児童の保護者に通知し、説明会を実施
- 横浜市議会で、4つの保育所を削除する改正条例が可決
- 保育所に通っていた保護者が、条例制定行為の取消しを求めて提訴
- 第一審:処分性を肯定しましたが、条例制定から2年経過していたため、取り消すことで混乱を招くとして事情判決
- 控訴審:条例制定は行政処分にあたらないとして、処分性を否定
- 保護者側が上告
※事情判決:処分は違法であるが、取り消すことが公共の福祉に適合しないと認められるときにされる判決。
争点
■争点
保育所廃止条例に処分性が認められるか?
つまり、
条例の制定行為が取消訴訟の対象になるか?
原則、処分性が認められない条例制定に、処分性が認められるかが最大の争点になります。
判旨
最高裁は、保育園廃止条例の処分性を認めました。
■理由
- 条例は形式的には一般的・抽象的な規範
- しかし本件では、特定の保育所を廃止する内容
- 入所者の利用関係という法的地位に直接影響
よって、実質的に個別具体的な処分と同じと認められ、例外的に処分性が認められました。
なぜ処分性が認められたのか
処分性についての学習は、判例知識が重要になります。
処分性が認められる理由を理解することで、処分性があるか判断ができるようになります。
ポイント①:対象が実質的に特定されている
条例は通常、不特定多数に向けられたものです。
しかし、保育所廃止条例では特定の保育所の廃止が対象になり、その保育所に通っている「特定の児童と保護者」という限られた範囲の人たちに影響を与えます。
つまり、個別具体性があると判断されました。
ポイント②:直接的に権利に影響する
条例が施行されることで、入所している園児や保護者の保育サービスを受ける権利が失われます。
保育所廃止条例は条例制定後、追加の処分を待たずに影響が発生します。
つまり、
条例そのものが、入所に個別の通知をしないで権利義務に直接的な法的効果を及ぼしていると判断されました。
ポイント③:もはや抽象的ルールではない
通常、条例は「抽象的・一般的」なルールで原則、処分性は認められません。
しかし保育所廃止条例は、中身が「具体的・個別的」な決定事項と判断され、処分性が認められました。
処分性は“誰にどの程度影響するか”で判断されます。
図解:本質

結論:形式ではなく実質で判断する。
保育所廃止条例事件の余談
保育所廃止条例の判例は、条例の処分性は認められましたが、結果としては、棄却判決になっています。
■理由
通っていた園児の保育期間が終了し、訴えの利益が消滅したからです。
裁判所は「今さら条例を無効だと認めたところで、保育園に戻ることは物理的に不可能だから、裁判を続ける意味(訴えの利益)がもう無い」と判断しました。
つまり、
保護者側は、処分性は認められたものの、実際の訴訟には負けてしまいました。
保育所廃止条例と都市計画との違い
都市計画との違いを見ることで、理解が深まります。
■ 都市計画(用途地域指定)
- 一般的・抽象的
- すぐに権利は変わらない
処分性なしと判断されます。
■ 保育所廃止条例
- 実質的に特定
- すぐに影響
処分性ありと判断。
▶都市計画の処分性についてはこちら
→都市計画(用途地域)指定の処分性とは?わかりやすく解説【最判昭和57年4月22日】
図解:比較

極端な例:山田さんピンポイント攻撃条例
- 通常の条例(処分性なし):
「町の景観を守るため、町内全域の街灯をLEDに交換し、不要な街灯は順次撤去する」という条例
→ これは町民全員に関わる「一般的なルール」なので処分性はありません。 - 山田さんピンポイント攻撃条例(処分性あり):
山田さんの家の真ん前にある街灯だけを、明日午前10時に撤去し、以後そこには街灯を設置しないという条例
→これは「条例」という名前ですが、実態は「山田さん一人」をターゲットにして、「山田さんの家の前が暗くなる」という結果を「直接」引き起こすので処分性があります。
つまり、
「ルールという仮面を被った、特定の個人に直接影響を与える行為」を見逃さないということです。
ポイント整理
保育所廃止条例のポイントは以下の通りです。
- 条例は原則処分ではない
- ただし実質が個別処分なら例外
- 直接影響があるかがカギ
本来は裁判の対象にならない「条例」を、例外的に裁判で訴えることを認めた重要な判例になります。
行政書士試験対策
保育所廃止条例の判例は、行政書士試験の多肢選択式・択一式でも頻出判例です。
試験対策として重要なのは以下の2つです。
- 「処分性」の判断基準
- 「訴えの利益」とのセット
「処分性」の判断基準
この判例が条例の処分性を認めた「理屈」を、記述式で書けるレベルで覚えると効果的です。
- 特定の個人に対して: 不特定多数ではなく、入所中の児童・保護者が対象
- 直接: 他の行政庁の処分を待つまでもなく
- 法的地位を奪う: 保育を受ける権利を喪失させる
- 結論: 「実質において行政処分と差異がない」
「訴えの利益」とのセット
「処分性があるなら、原告(保護者)が勝ったのか?」という点が出題される可能性があります。
- 結論は「棄却」: 処分性は認めたが、「卒園」によって「訴えの利益」が失われたため、中身の判断(違法かどうか)はせずに門前払いとなりました。
- 比較判例: 「小田急高架訴訟」なども処分性と訴えの利益がセットで出やすいので、混同しないよう注意です。
「処分性は認めたが、訴えの利益は否定した」という判例です。
▶訴えの利益についてはこちら
→訴えの利益とは?わかりやすく解説|判断基準と重要判例を整理
よくある誤解
× 条例はすべて処分ではない
→×個別具体性があれば、処分性が認められる場合あり
×すべての保育所廃止条例に処分性が認められる
→×あくまで「現に通園している児童がいる」場合に限られる
処分性に関する判例
▶行政指導の勧告で例外的に処分性が認められた判例はこちら
→【最判平成17年7月15日】病院開設中止勧告事件をやさしく解説
▶土地区画整理の処分性が認められた判例はこちら
→土地区画整理事業計画は処分?処分性が認められた理由をわかりやすく解説【最大判平成20年9月10日】
▶都市計画の処分性が認められない理由はこちら
→都市計画(用途地域)指定の処分性とは?わかりやすく解説【最判昭和57年4月22日】
▶通達に処分性が認められない理由はこちら
→墓地埋葬通達は処分?処分性が否定された理由をわかりやすく解説【最判昭43年12月24日】
まとめ
保育所廃止条例は、原則認められない処分性が認められた重要な判例です。
- 条例は原則処分ではない
- しかし例外あり
- 判断は実質で行う
つまり、
「形式が条例でも、実質が処分なら処分性あり」
処分性の要件は、抽象的な部分があり理解しにくいですが、判例知識を学ぶことで理解ができるようになります。


コメント