はじめに
「公立病院の診療費は公法上の債権なの?」
「市立病院や県立病院の診療費には地方自治法の時効が適用されるの?」
行政法を学習していると、
- 公法
- 私法
- 公債権
- 私債権
- 消滅時効
の関係で混乱することがあります。
その中でも重要なのが、最高裁判所の
「公立病院の診療費の消滅時効事件」です。
結論からいうと、
最高裁は、公立病院の診療費債権は私法上の債権であると判断しました。
つまり、
公立病院が請求する診療費であっても、公権力の行使によって発生する債権ではないため、地方自治法上の公債権とは扱われなかったのです。
この判例は、
- 公法と私法の違い
- 公債権と私債権の違い
- 消滅時効
- 行政主体が行う活動の法的性質
を理解するうえで重要な判例です。
この記事では、
- 事案の概要
- 争点
- 判旨
- なぜ私法上の債権とされたのか
を初学者向けにわかりやすく解説します。
▶先に公法と私法の違いを確認したい方はこちら
→公法と私法の違いとは?具体例でわかりやすく解説
公立病院の診療費の消滅時効とは?【結論】
結論:
最高裁は、
公立病院の診療費債権は私法上の債権であると判断しました。
そのため、
地方自治法に規定されている公債権の時効ではなく、民法上の消滅時効が適用されるとしました。
事案の概要
ある公立病院が患者に診療を行いました。
しかし患者は診療費を支払わず滞納していました。
そこで、
病院を設置する地方公共団体が診療が行われた日から3年以上、5年未満が経過した時点で診療費の支払いを求めました。
これに対し、
診療費請求権の消滅時効が問題となりました。
なぜなら、
公立病院は地方公共団体が運営しているため、その診療費が、
- 公法上の債権として地方自治法の消滅時効が適用されるのか
- 私法上の債権として民法の消滅時効が適用されるのか
によって時効制度が変わる可能性があったからです。
※当時の民法では診療報酬債権は3年で時効消滅するとされていました。

争点
争点は、
「公立病院の診療費債権は公法上の債権か、それとも私法上の債権か」です。
つまり、
公立病院の診療費に、
- 地方自治法上の公法上の債権の時効が適用されるのか
- 民法上の消滅時効が適用されるのか
が問題となりました。

判旨
最高裁は、
公立病院の診療費債権は私法上の債権であると判断しました。
その理由として、
診療契約は患者と病院との間で成立する契約関係であり、行政庁が公権力を行使して一方的に課すものではないことを挙げました。
したがって、
診療費債権は公法上の債権ではなく私債権であり、民法上の消滅時効が適用されるとしました。
なぜ私法上の債権とされたのか
ここが試験でも重要なポイントです。

ポイント①:診療は契約に基づいて行われる
病院で診察を受ける場合、患者は自ら病院を受診します。
病院側も診療を行います。
これは実質的には契約関係です。
そのため、
課税処分のような公権力の行使とは異なります。
ポイント②:行政庁が一方的に命じているわけではない
税金は行政庁が一方的に課します。
しかし診療費は違います。
患者が診療を受けた結果として発生するものであり、行政庁が命令して発生させるものではありません。
そのため、
公法関係ではなく私法関係と考えられました。
ポイント③:地方公共団体が関与していても当然に公法にはならない
ここが重要です。
地方公共団体が行っている活動だからといって、すべてが公法関係になるわけではありません。
例えば、
- 病院経営
- 物品購入
- 建物賃貸借
などは私法関係になることがあります。
本件もその一例です。
なぜこの判例が重要なのか
行政=公法という覚え方では、
「市立病院なのだから公法では?」と思うことがあります。
しかし最高裁は、
誰が行っているかではなく、「どのような法的関係なのか」を重視しました。
つまり、
地方公共団体が関与していても、契約に基づく関係であれば私法関係になる場合があると示したのです。
行政主体が行う活動には、
- 公権力の行使として行う活動
- 私人と同じ立場で行う活動
があります。
本件は、
地方公共団体が私人と同じ立場で行う活動の代表例です。
そのため、
「誰が行うか」ではなく、「どのような法的性質を持つ行為か」で判断することが重要になります。
公法と私法を比較すると理解しやすい
公法の例
- 課税処分
- 営業停止処分
- 運転免許取消処分
- 農地買収処分
行政庁が優越的な立場で行います。
私法の例
- 売買契約
- 賃貸借契約
- 診療契約
- 損害賠償請求
当事者同士は基本的に対等です。
農地買収処分事件との違い
比較すると理解しやすくなります。

農地買収処分事件
法律に基づく強制買収
↓
公権力の行使
↓
公法関係
公立病院診療費事件
診療契約
↓
当事者の合意
↓
私法関係
つまり、
農地買収処分事件は公法関係、公立病院診療費事件は私法関係の代表例として整理できます。
▶農地買収処分事件についてはこちら
→農地買収処分事件とは?公法と私法の違いをわかりやすく解説【最大判昭和28年2月18日】
行政書士試験の重要ポイント
重要ポイント①
■ 公立病院の診療費は私法上の債権
公法上の債権ではありません。
重要ポイント②
■ 診療契約に基づく
患者が診察を受け、病院が診療を提供することで成立する契約関係です。
重要ポイント③
■ 地方公共団体が関与していても私法関係は存在する
主体ではなく法的性質で判断します。
重要ポイント④
■ 公法と私法の区別の代表判例
行政法総論の理解に役立ちます。
行政書士試験想定問題
- Q公立病院の診療費債権は、公法上の債権である。
- A
誤り。
最高裁は私法上の債権であると判断しました。
- Q地方公共団体が当事者となる法律関係は、常に公法関係である。
- A
誤り。
地方公共団体が関与していても、契約関係であれば私法関係となる場合がある。
この判例の難しく感じた点
この判例の難しい点は、
「公法が適用される場合」と「私法に適用される場合」の考え方だと感じました。
単純に考えると、
「地方自治体が運営している病院だから公法では?」と思ってしまいます。
しかし、
この判例を学ぶと、診療行為自体は、医者と患者の契約行為だと理解できます。
公法と私法どちらのルールが適用されるかの曖昧さは、判例で判断すると理解しやすくなります。
学習のコツ
公法と私法を区別するときは、
「誰が行うか」ではなく、「どのような権限に基づいて行われるか」に注目することが大切です。
行政主体が関与していても、公権力の行使でなければ私法関係となることがあります。
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まとめ
公立病院の診療費の消滅時効事件は、
公法と私法の違いを理解するうえで重要な判例です。
- 公立病院の診療費は私法上の債権
- 診療契約に基づいて発生する
- 公権力の行使ではない
- 民法上の消滅時効が適用される
- 地方公共団体が関与していても私法関係となる場合がある
行政書士試験では、
「地方公共団体=公法」と短絡的に考えず、法律関係の性質から判断することが重要です。

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