はじめに
「違法な処分が行われる前に止めることはできないの?」
「義務付け訴訟との違いがよくわからない……」
行政事件訴訟法を学習していると、
- 差止訴訟
- 義務付け訴訟
- 取消訴訟
の違いで混乱することがあります。
特に差止訴訟は、行政庁がこれから行おうとしている処分を事前に止めるための制度であり、義務付け訴訟と並んで平成16年(2004年)の行政事件訴訟法改正で創設された重要な訴訟です。
この記事では、
- 差止訴訟とは何か
- 要件
- 義務付け訴訟との違い
- 仮の差止め
を初学者向けにわかりやすく解説します。
差止訴訟とは?(結論)
結論からいうと、
行政庁がこれから行おうとしている違法な処分を、事前に止めてもらう訴訟です。
例えば、
- 違法な営業停止処分がされそう
- 違法な施設設置許可がされそう
という場合に利用されます。
つまり、
「処分された後では遅いので、先に止めてもらう」ための制度です。

差止訴訟が作られた理由
昔の行政事件訴訟法では、
処分が行われてから争うのが原則でした。
しかし、
営業停止処分
↓
営業できなくなる
↓
後で勝訴しても損害回復が難しい
というケースがあります。
そこで、
重大な損害が発生する前に処分を止めるため、差止訴訟が創設されました。

差止訴訟の要件
行政書士試験ではここが最重要です。
差止訴訟には主に次の要件があります。
① 原告適格
差止訴訟は、処分の差し止めを求めることについて、「法律上の利益を有する者」が提起することができます。
処分の当事者だけではなく、法令によって保護されている利益を侵害される第三者も含まれます。
② 重大な損害を生ずるおそれ
単なる不利益では足りません。
処分によって重大な損害が発生するおそれが必要です。
③ 他に適当な方法がない(補充性)
差止訴訟は例外的な制度です。
他の方法で救済できるなら認められません。
④ 処分がされる蓋然性がある
まだ処分されていない段階なので、
実際に処分が行われる可能性が必要です。
例:
営業取消処分について、聴聞の通知が届くなど。
差止訴訟の本案要件
差止訴訟が認められるためには、将来行われる処分が違法であることが必要です。
違法性は、
① 法令違反
→行政庁がしようとしている処分が、根拠となる法律や条例の定めに違反していること。
② 裁量権の逸脱・濫用
→行政庁に処分をするかどうかの裁量が認められている場合であっても、その判断が事実の基礎を欠いている、または社会通念上著しく妥当性を欠いており、裁量の範囲を超えていること。
などによって判断されます。
▶裁量権の逸脱・濫用についてはこちら
→裁量権の逸脱・濫用とは?違い・判断基準・判例をわかりやすく解説
差止訴訟の流れ
行政庁が処分予定
↓
重大な損害のおそれ
↓
差止訴訟提起
↓
裁判所
↓
処分を禁止
義務付け訴訟との違い
ここは試験頻出です。
| 差止訴訟 | 義務付け訴訟 |
|---|---|
| 処分を止める | 処分をさせる |
| 消極的救済 | 積極的救済 |
| ブレーキ | アクセル |
イメージで覚える
行政に対して裁判所が、
■差止訴訟
→「やるな!」
■義務付け訴訟
→「やれ!」
というイメージです。

取消訴訟との違い
取消訴訟は、
すでに行われた処分を争います。
一方、
差止訴訟は、まだ行われていない処分を争います。
| 差止訴訟 | 取消訴訟 |
|---|---|
| 事前救済 | 事後救済 |
| 将来の処分 | 過去の処分 |
| 処分前 | 処分後 |
仮の差止めとは?
本案判決を待っている間に、
重大な被害が発生する場合があります。
そこで、
裁判所は申立てにより、暫定的に処分を禁止できます。
これを、
「仮の差止め」といいます。
仮の差止めの要件
- 差止訴訟を提起している
- 本人の申立て
- 償うことのできない損害を避けるため緊急の必要
- 本案について理由があるとみえるとき
です。
行政書士試験の重要ポイント
重要ポイント①
■ 差止訴訟は「事前救済」
取消訴訟は処分が行われた後に争う制度です。
これに対して差止訴訟は、
「違法な処分がされる前に止める制度」であることが重要です。
重要ポイント②
■ 「重大な損害を生ずるおそれ」が必要
差止訴訟は例外的な制度です。
そのため、
- 重大な損害を生ずるおそれ
- 他に適当な方法がないこと
が要件となります。
この点は記述式でも狙われやすいポイントです。
重要ポイント③
■ 義務付け訴訟との違い
よく比較されます。
| 差止訴訟 | 義務付け訴訟 |
|---|---|
| 処分を止める | 処分をさせる |
| ブレーキ | アクセル |
| 消極的救済 | 積極的救済 |
試験では、
「やるな」=差止訴訟
「やれ」=義務付け訴訟
と整理すると覚えやすいです。
重要ポイント④
■ 仮の差止めとの違い
ここは記述式対策として重要です。
| 制度 | 要件 |
|---|---|
| 差止訴訟 | 重大な損害を生ずるおそれ |
| 仮の差止め | 償うことのできない損害を避けるため緊急の必要 |
この違いは頻出です。
重要ポイント⑤
■ 差止訴訟は平成16年改正で創設
差止訴訟と義務付け訴訟は、平成16年の行政事件訴訟法改正で導入された制度です。
行政救済の実効性を高めるために創設されました。
学習して難しかった点
私が最初に混乱したのは、取消訴訟との違いでした。
最初は、
「処分された後に取り消せば十分では?」と思っていました。
しかし、
営業停止処分や施設閉鎖命令などは、一度実施されると後から取り消しても損害を完全に回復できない場合があります。
そのため、
処分前に止める差止訴訟が必要になります。
義務付け訴訟が「行政にやらせる訴訟」なら、差止訴訟は「行政にやらせない訴訟」です。
この視点で整理すると理解しやすくなりました。
学習のコツ
おすすめの順番は、
① 行政事件訴訟法
↓
② 抗告訴訟
↓
③ 取消訴訟
↓
④ 義務付け訴訟
↓
⑤ 差止訴訟
です。
特に、
義務付け訴訟との比較で理解すると覚えやすくなります。
あわせて読みたい
▶行政救済法とは?全体像と流れを初心者向けにわかりやすく解説
▶義務付け訴訟とは?要件・種類・取消訴訟との違いをわかりやすく解説
まとめ
差止訴訟は、
行政庁がこれから行おうとしている違法な処分を止めるための訴訟です。
- 行政庁に「やるな」と求める制度
- 重大な損害のおそれが必要
- 義務付け訴訟とは逆の関係
- 仮の差止めも重要
行政書士試験では、
- 「重大な損害」
- 「償うことのできない損害」
の使い分けが頻出です。
まずは、
- 義務付け訴訟=アクセル
- 差止訴訟=ブレーキ
で整理すると覚えやすいでしょう。

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